ながい坂 (上巻) (文庫)

今まで何度も挫折して読了出来なかっただけに、感慨ひとしおです。主人公の三浦主水正の半生を通して、人の世とは如何なるものか、人情とは如何なるものかを知ることが出来ました。
幼い心に刻まれた屈辱が、向上心を生み、我が身を人の世の渦に投げ込んでゆく。よく、生き延び耐え忍んだものだと、感心せざるを得ません。また、三浦を引き立てて庇護し続けた君主の凄み。小藩にこれだけの人物が居たのか?と思わされます。
武士の世界は安易に礼賛できるような、甘いものではなかったこともよく分かりました。

主人公の主水正には、いつも重い荷物と孤独の影がつきまとう。
颯爽としたところがない。ものの見方が俯瞰的(藩主継承を巡る勢力争い)なため、
さらに苦労が多い。 これが山本周五郎流なのでしょうか。池波正太郎とも、藤沢周平とも違う真摯さ・律儀さを感じる作品です。


受験戦争を勝ち抜くために頑張った中学・高校時代。そして何とか有名私立大学に入学できたとたんにはじけたバブル。就職氷河期のなかやっと会社に入社し、ガムシャラに働いて中堅クラスになったものの、平成不況の影響で新入社員を採用していないため業務量は増えるばかり。たまに何もかも投げ出したくなることがあります。本書の主人公と与えられた環境や境遇は違いますが、何となく私は自分の今までの人生と照らし合わせて同感する部分が多かった気がします。そしてこれは私だけでなく、どの世代でも日本のサラーマン全員に共感できる部分があると思います。本書の最後は長い人生という上り坂の頂上で到着しません。どちらかというとふっと後ろを振り向いたら思いがけず長い上り坂を登ってきたことに気付くといった感じです。そしてこれからももっと長く急な上り坂が目の前に続いています。しかしそれは悲壮感ではなく今までも頑張ってこれたのだから、これからも頑張るぞ!といった希望感に近いものです。人生の中間点的な35歳から40歳の人にとって、この本は何となく勇気を与えられる薬になるのではないでしょうか?

上巻の疾走感は段々となくなり、主人公の三浦主水正は「善と悪」というものが表裏一体のものであり、どちらが悪いということがいえないことに悩みます。
 これは周五郎の作品ではよく見られることなのですが、「法と掟」などと言われたりもします。答えの出ないことだけに疾走感がなくなってしまってはいますが、後半の佳境からの出来事には爽快感が蘇り、ラストへ続きます。読後感は言うことなしの仕上がりにはなっていますが、やはり煮え切らないことも多い。
 このテーマのおいて、誰もが納得する答えを出すことが不可能だと言うことが強調されているのではないでしょうか?それが作者に多大なる疲労をもたらしたと考えてもいいと思います。
 しかし、この文量の大作をここまでの完成度で仕上げる周五郎の力には舌を巻くばかりです。山本周五郎最高傑作であると思います。

ながい坂 (下巻) (文庫)

人公である三浦主水正が、平侍という家格の低い家に生まれながら国家老になるまでを描いた作品。
 周五郎ファンであれば読み続けていくうちに気付くに違いない、この作品は著者の自らを模した自伝的作品ではないかと。文中、主人公が生きる、高が7万5千石の小藩の為に何をそんな懸命に生きるのかと著者は問題提起している。
 他者に批判されながらも、生きる意味を問い続けた著者の姿を主人公に投影しているのだ。この作品を読めば多くの周五郎作品により理解が深まる一作である。


 人生というものの縮図がここにあります。8歳の時に、一つの人生における分水嶺的な出来事に直面してしまった、小三郎が向上心と誇りを持って生きることを選んでしまったことから、この物語は始まります。
 詳しい筋書きは省きますが、人の世はなんと生きにくく、人の心とはなんと難しいものであるかを思い知らされます。そんなことで妬むのか!そんなことを根に持つのか!おまえまでもがやっかんでいるのか!人間通とでも呼ぶのがふさわしい山本周五郎によって、人の心の奥襞があぶり出されていきます。
 それでも負けじと頑張る小三郎は、やがて三浦主水正になり、主君の寵愛を受けるようになるが…。頑張ること、正しいこと、人のためになること、いずれもそれが賞賛さるべきことであると皆が分かっていることでありながら、人の世はそれを押し通すことを許さない。人間観察力において周五郎は、ドストエフスキーを超えていると思いました。




天地静大 (文庫)

東北の小藩の一藩士「杉浦透」と、藩主の弟「水谷郷臣」の交流を通じて、人生の中の
真実・愛・善悪を見つめていく話。
この小説は、読みやすく単純に面白いが、少し長めな上、特別な盛り
上がりはないので合わない人には少々辛いかもしれないが自分は大変楽しめた。
世の事柄に絶対の正解はなく、全ての人がそれぞれの生活の中で見つけた答えの繋
がりが世の中を動かしているのだなぁ、と考えさせられる一冊。
またいつか読み返してみたい。